『黒の契約者』第12話「壁の中、なくしたものを取り戻すとき…後編」〔感想〕

「なぁ…。 いつか、本当の星空が戻ってくると思うか?」
『DARKER THAN BLACK-黒の契約者-』第12話。【流星の欠片】という鏡に映ったもう一人の自分。夢を信じたその男は、本当の星空へと還っていった。黒(ヘイ)の瞳に、輝くような笑顔を遺して…。


「おにいちゃん、また流れ星みたよ!」
針葉樹の森に囲まれた夜の湖畔。足を湖水に浸した妹は、愛くるしい笑顔で満天の星空を指さす。
「じゃあ、今度は願い事をしてごらん」 「…ねがいごと?」
妹に教えてあげようと思っていた楽しい知識を優しく聞かせる、幼い頃の自分。すぐ傍には大切な天体望遠鏡。
「流れ星はね、神様が天の蓋を開けた時に洩れる光なんだよ。だから、その時にお願いすれば、神様に聞き届けてもらえるんだ」
妹の瞳が嬉しそうにパッと輝く。
「ほんと?! わたし、ねがいごとたっくさんあるよ! かんごふさんにもなりたいし、宇宙にもいきたい!」
「お兄ちゃんに言ってもだめだよ。お星様にお願いしなきゃ」
「あ、そっか。 えぇと、おほしさま、おほしさま…」
再び流れ星を見つけ、キュッと目を閉じて両手を握る妹。

モニターで初めて妹の幻を見て以来、黒はたびたび幻覚に襲われるようになっていた。
ゲートが出現する前。無邪気な笑顔の妹と、幸せだった少年時代の自分。
だが、いつも最後に妹の姿は掻き消え、穏やかなはずの湖は血に染まった光景へと変わってしまう。 絶望が心を苛む。

そんな黒の姿を、胸を痛めながら見守っていたミーナ。必死に「一人で抱え込まないで」と訴えるものの、「それはあんたの仕事じゃないだろう?」とかわされてしまう。
気遣う理由を逆に尋ねられて言葉に詰まり、自らの立場の危うさを挙げる彼女に対して、黒は静かな声で言い聞かせる。
「あんたが処分されることはない。組織は、あんたに期待していない。」

ニックが【流星の欠片】の捜索チームに選ばれたことを知り、寂しげな表情になる黒。
「なんであんな場所にあれが移動したのか、見当もつかないよ。」
沈んだ顔で聴いていた黒だったが、思いがけないニックの提案が心を動かした。
「あの天体望遠鏡、君に進呈しようと思うんだ。受け取ってくれるかな?」
黒に笑顔が戻る。「はい ! 」明るく弾む声。
「無事に帰ってこられたら、また一緒に星を観よう。」 「ええ、ぜひ。」
約束が果たされることを、この時の二人は信じていた…。

《 彼の役に立ちたい。》 その一心で思い切った行動に出たミーナは、秘かに思いを寄せる黒から厳しく言い渡されてしまう。
「ようやく夢叶ってここにいるんだろう? だったら、そのことだけを考えろ。」
だが、事態は暗転する。 千代田区外神田の現場へと赴いた捜索チームの研究者達が、次々と命を落としていったのだ。カメラが捉えたのは、裏返しに並べられた被害者の保護靴。
惨劇からのただ一人の生還者、それがニックだった。

怪我が回復し、電動車椅子に乗る彼を見かけた黒は、優しく声を掛ける。
「もう、大丈夫なんですか? …大変でしたね。」
ニックはこの研究所を辞め、NASAに復帰願いを出すつもりだという。
「一緒に星を観る約束は、ここを出た後だな。」 「その時は、妹さんも一緒に。」 「ああ…、そうだな。」
ふと、ニックが右手を差し出す。 予想していなかった反応に目を瞠る黒。
「君とは最初に会った時から、他人だという気がしなかった。もう一人の自分を見ているような気さえしたよ。 君と出会えて、良かった。」
ニックの心からの述懐に、黒は微笑んで握手を交わす。

一方、大惨事にも関わらず負傷しただけのニックに疑惑を抱くミーナ。 彼こそ、一連の事件を引き起こした契約者なのではないか。
「彼がそれをやったと…? 今まで彼と何年一緒に働いてきたんだ? 今まで彼が契約者だと思ったことはあるのか?」
信じがたい思いで問う黒に、ミーナは首を振る。
「…ありません。 ただ、あなたを見ていたら…分からなくなりました。」
誰よりも優しい、黒。 その人が、契約者なのだから。
ミーナの言葉を聞きながら、彼は黙って立ち去る。

自室のベッドで目を閉じて思いを巡らせる黒は、やがて瞼を開けた。
視線の先には、ニックがくれたSATAKEの天体望遠鏡。
《 彼が契約者だとは思えない。彼の夢を信じたい。 でも…、確かめなければならないんだ…。》

夜の闇に紛れ、一人で車椅子を駆って外出したニック。廃墟と化した東京駅に着くと車椅子を降り、コインロッカーを目指す。
扉を開ける瞬間、追ってきた警備責任者・リンゼイから拳銃を突きつけられるが、電撃を行使して撃退。相手のブーツを脱がせ、逆さにして丁寧に立てる。
不意に人の気配を感じて目を上げると、そこにいたのは……深く傷ついた表情の黒だった…。

ニックはロッカーを開け、凹レンズ状の物体を手に取る。「これが【流星の欠片】だ。」
黒は瞠目する。
CIAに雇われ、NASAへの復帰を条件にゲート内物質の奪取を命じられていたニック。だが研究の成果が現場に還元されず、本物の宇宙を取り戻す夢も、妹を宇宙に連れて行く夢も、このままでは実現できない。
「突飛な話だと思うだろう? だが、残念ながら本当なんだ。 君にだけは、僕の夢を信じていてほしいから。

じっと俯いていた黒が、絞り出すように口を開く。
「昔、それと同じ物を見たことがある。 契約者は皆、自らを制御できないくらい能力を高め、殺し合い、死んでいった…!! 」
彼の脳裏に、頭部から血を流しながら【流星の欠片】を手にする妹の姿が甦る。

「あんたの言っていることは全部嘘だ。そいつは本当の星空なんて見せやしない。俺に語った夢も、妹も、全部!」
激しい口調でなじる黒だったが、ふと顔を歪め、哀しい笑みを浮かべた。 信じていたニックに裏切られたという絶望感が、彼の心を押し潰す。
「契約者が…、夢を見るはず…ないもんな…」


不審げに見つめていたニックが呟く。「君は一体、誰だ?」
飛び掛かり、黒の頭を掴む。 一方の黒もニックの胸に手を突く。 同時に紅く輝く二人の瞳。
互いの電撃によって弾き飛ばされる。「僕の能力が効かない?!」
視線を走らせ、先刻倒したリンゼイの拳銃を手にすると、ニックは走り出した。黒が追う。

ニックの銃弾を避け、街路樹の陰に身を潜めた黒。 鋭く周囲を伺うと、予期しない光景が目に飛び込んでくる。
    成長し、契約者のまとうボディスーツに身を包んだ…妹。
目を見開き、黒は歩き出す。 一歩、また一歩。 だが、妹の肩に手を掛けた時、その姿は消えてしまう。
それは、ニックが白衣のポケットに隠し持つ【流星の欠片】が見せた幻。
黒の頭部に後ろから拳銃を近づけ、ニックは哀しみの滲む声音で語る。
「能力まで一緒か…。つくづく、僕らは似ているんだね。 『契約者は夢を見ない』。確かに僕も、そう思っていたのかもしれない。 でも、だからこそ、君を信じた。君だけは、僕の夢を理解してくれると思った。 …でも、…信じた僕が馬鹿だったんだな。」
ニックは自嘲気味に笑う。
辛そうな黒の表情。 彼もやはり、ニックの夢を信じていたのだ。
 
「巻き込みたくなかったよ…君だけは。」

その時。 二人の体からランセルノプト放射光が発光し始める。鳴動する地響き。
歯を食いしばり、ニックが引き金を引く。 だが、白く輝く小柄な人影が立ちはだかり、黒を銃弾から守る。
眩しい閃光が二人を包み込んでいく…。

光の中で、ニックが震えだす。 急速に時間をさかのぼる彼の体は、ついに幼い頃の姿へと戻ってしまう。
大きすぎる白衣を呆然と見つめるニック。 ふと頭上を見上げ、空を指す。
           「りぃくん、ほし!!」
黒が見上げると、そこには… ニックと眺めた北斗七星。
本当の星空が開かれていたのだ。

響いてくるロケットの発射台の音に気づき、嬉しそうにニックは駆け出す。
         「やっぱりきみは、信じていてくれたんだね!」
「聴こえない…!」
ニックの言葉を必死に聞き取ろうと耳に手を当てる黒だったが、轟音にかき消されてしまう。
絵本から抜け出したような可愛らしいロケットが『本当の星空』へ向かって上昇していく。
その操縦室から笑顔を見せるニックと、手を振る彼の妹。
黒は見送ることしかできない。
ロケットが吸い込まれると、突如として星空が消滅した。 愕然とする黒……。


全てが終わった後。 巨大なクレーターのようにえぐれた地面の底で、黒は意識を取り戻す。
彼の左手で徐々に光を失っていく【流星の欠片】
傍には、ニックの白衣だけが残されている。確かにそれを着ていたはずのニックは、もう黒の前に戻ってくることはない。あの穏やかな笑顔は、永遠に失われたのだ…。
心身ともに傷ついた黒の眼前へ、観測霊が現れた。
「銀(イン)…」

救急隊から身を隠して建物の陰に座り込む黒。 その耳に、セルゲイ主任の低い声が響く。
「第3研究棟の11番ゲートに行け、黒(ヘイ)。 外に出る手はずが整ってる。」
「知っていたのか、全部? ニックが犯人だということも?」「…知っていた。」
黒の激しい怒りが爆発する。「だったらなぜ、さっさとケリをつけなかった!?」
「【流星の欠片】の持つ力を知る必要があった。」 淡々と語るセルゲイ。
黒は怒りに顔を歪め、セルゲイの頭を掴む。 だが、やがて無念そうに手を放す。
自分に関わったミーナを気遣う黒。 「彼女は…どうなる?」
「彼女の日常はこれからも変わらない。 失ったものを取り戻し、対価を支払った。 それだけのことだ。」

ミーナが研究に打ち込む中で忘れていた〔人を想う心〕。 彼女は生まれて初めて、届かぬ想いを黒に寄せ、そして恋は儚く散った。

そしてまた、黒自身も。
ゲートの出現とともに自分の中から消し去ったはずの、〔温かな友情〕。
同じ夢を抱くニックとの間にそれを育み、いつしか心を許していた彼は、対価としてニックその人を失っている。


黒はほろ苦い思いを噛みしめる…。


ゲートの外へと戻り、久しぶりにマオと落ち合った黒は、ニックと出会ってから胸にずっと抱いてきた問いを口にする。
「なあ…」 「ん?」
「いつか、本当の星空が戻ってくると思うか?」

驚いてマオは黒の顔を見た。
そこにあるのは、初めて目にするほどのせつない横顔。
再び目を閉じて、マオは尻尾をゆったりと振る。
「失ったものを取り戻せるのは、ゲートの中だけさ。もっともそれも、迷信だろうがな。」

銀のいるタバコ屋へとやって来た黒。 カウンターの前で立ち止まり、ピンクの紙に包まれたキャンディーを一つ置く。
体を傾け、銀の顔に視線を合わせて彼が言ったのは…
温かな声音での 「ありがとな。」
彼女の観測霊によって黒が発見されたために組織からセルゲイに連絡が届き、ゲート外への脱出の準備が整えられた。

おそらく銀は、今回の【流星の欠片】の激しい発光には関わっていない。
観測霊を通じて状況を見ることはできても、能力の概念すら超える【流星の欠片】をコントロールする力は持っていないから。
ただ、ゲートの中でさまよい傷つく黒を、誰に命じられたわけでもなく、そっと見守っていた。
そのことへの、素直な感謝の言葉。
それだけを伝えると、黒は静かに歩み去る。


東京タワーの展望台。 アポロキャップをかぶり、フード付きコートのスタイルで街を眺める女性。
琥珀色の瞳に宿る微笑み。
  
 
   アンバーが、ついに姿を見せた。




**************************************************



感動して……うまく言葉で表せないのがもどかしい……。

木内さんの演技に心の底から酔いました。


妹。 星空への憧れ。

黒は、ニックの夢を信じていたんですね。
そして…ニックその人を信じていた。

黒も、夢を抱いているからでしょうか。

彼の場合は、『妹を捜し出して穏やかな日を過ごさせてあげたい』という夢なのかな。
《 いつか、妹と一緒に再び本当の星空を見上げることができたら。 》


黒がニックの夢を信じていたからこそ、【流星の欠片】はその夢を幻の中で実現させた。

裏切られたと感じても、ニックを最も理解していたのは黒だったことに変わりはない。

少年ニックの言葉を聞き取ろうとして耳に手を当てるシーン。 胸が詰まりました…。


同じように夢を抱き、契約者としての能力まで一緒。

信頼する黒に見送られてこの世を旅立てたことが、ニックにとっての救いなのかも。

人生で一番最初に宇宙への憧れを抱いた、幼い頃に戻って。 笑顔で、妹とともに。


ニックが黒に語った言葉には嘘が無かったのですね。 全部、彼の本心から出た言葉。

それが本当に嬉しい。


銃弾から黒を守った輝く人影は、もしかしたら白(パイ)なのかな、と思います。

妹その人の命や思いが込められたもの。それがあの【流星の欠片】だったとしたら…。



黒が秘めていた優しさ。 人間的な部分。 それらが明らかになってきましたね。

ニックとの出会いと別離は、黒の今後を大きく変えていくかもしれない。


観終わって、そんな風に感じました。




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この記事へのコメント

2007年06月24日 16:07
初めまして、こんにちは。いつもブログ拝見させていただいております。月花珠樹(げっかしゅじゅ)と申します。
元々アニメ・声優オタクと呼ばれる人間だったのですが、DARKER THAN BLACK-黒の契約者-(というか黒)が私の好みど真ん中直球で、毎週毎週楽しみに視聴してます。そこでこのブログに辿り着き、プロフィールを見ればなんと「鋼の錬金術師」や「桜蘭高校ホスト部」等がお好きとの事で吃驚しました。(私のオタク生命の原点が鋼の錬金術師で、もう愛していると言っても過言ではないくらいなので;)

実はこちらのブログに辿り着いたのは随分前のことで、臆病者なものですからコメントも出来ず、今まで黙って見ているだけだったのですが…。
初コメントでこんなに長々と、しかも“オタク”なんて連発してすみません。翠水堂さんの事をそういうつもりで呼んでいるわけではありません。(私はオタクと呼ばれることに何も感じませんが、お嫌な方もいらっしゃいますから、翠水堂さんが不快に思われたら申し訳ありません…)
2007年06月24日 16:08
文字数がオーバーしてしまったので続きです…(長くてごめんなさい)

>ニックとの出会いと別離は、黒の今後を大きく変えていくかもしれない。
私もそんな風に感じました。翠水堂さんの次の考察をじっくりと待ち楽しみにしております。
それでは長々と意味不明なことを書いて本当に失礼しました…。ご迷惑でなければまたコメントを残させていただきたいと思います。
2007年06月24日 21:35
初めまして、月花珠樹さん。コメントを頂きありがとうございます!
いつも読んでくださっているのですか!! わぁ、本当に嬉しいです☆ とても励みになります(^▽^)/
ダーカーの感想を書く時はどんどん長くなってしまうのが悩みの種で、ついに第12話は土曜の夕方6時から書き始めてアップしたのが午前零時過ぎという状況に(汗)。夕食も摂らずに各シーンを再生し、またパソコンに向かって。でも、それが楽しいのですね。書きながら黒たちの心が少しずつ解ってくるようで。
思いの丈を書き綴ってしまったので、読みにくい箇所がたくさんあるかもしれません…。そんな時はそっと見逃していただければ。なので、オタクと呼ばれても全然OKです。むしろ、こんな者でもオタクの端くれとして見て頂けるのなら、これぞ本望☆
(次へ続きます~)
2007年06月24日 21:40
(↓続きです~)
鋼が大好きでいらっしゃるとのこと、私もまさにその通りなのです。人生の指針のような存在として輝いています。
ダーカーの魅力は、幾重にもかさなった謎と『主人公・黒の奥の深さ』ですよね。鋼やホスト部を作り上げた制作スタッフの皆さんだからこそ描けるストーリー。黒の過去も明らかになってきましたし、第2クールが本当に楽しみです。このままずっと続いてほしい…!

またぜひ遊びにいらしてくださいね♪ お越しをお待ちしております。

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